ニックネーム:Mr.Pitiful
タイトルの "R 'n' S & B" は "ROCK 'n' SOUL & BLUES"。 "+ c" は, 最近聴き始めた Country Music 。
2010年10月24日(日)
日暮泰文 『のめりこみ音楽起業』
日暮泰文 『のめりこみ音楽起業〜孤高のインディペンデント企業、Pヴァイン創業者のメモワール』 同友館 刊

本書の著者である日暮泰文さんは,日本において Blues, R&B,Soul など 「ブラック・ミュージック」と呼ばれるジャンルの音楽を,一部のマニア以外にも普及・浸透させる役割を果たしてきた重要人物の一人。

「Intro メンフィス・モーテルのダイニング・ルームから」という章で,本書は始まっている。
そのバルコニーでキング牧師が狙撃されたという部屋で,著者が会っていたのは,「ソウル・ビートという小レーベルを運営するカルヴィン・ブラウン」。当時,キング牧師の信奉者だった彼は,その部屋に住み続けていたのだそうだ。その部屋でまとまりかけていたのは,「彼が手がけた若手のブルース/ソウル・アーティスト,カルヴィン・リーヴィーの楽曲」を「集めた LP アルバムを日本で発売したいという話」。
1976年秋に P-Vine から最初にリリースされた Calvin Leavy の LP は,発売されてすぐに購入したはず。そのアナログ盤は既に手元に無いが,CD 化されたものはときどき引っ張り出して出して聴くことがある。
● Calvin Leavy "Cummins Prison Farm" [P-Vine PCD-2118] -1989
 Dan Penn と Spooner Oldham が書いた 'Nine Pound Steel' も歌われていた。Calvin Leavy は,その歌で歌われている獄中生活が現実のものとなり,何度かの収監の後,Arkansas の州刑務所内の病院で,今年亡くなっている。70歳だったそうだ。
Calvin Leavy dies at 70
http://www.todaysthv.com/news/news.aspx?storyid=106121


Calvin Leavy : Cummins Prison Farm @ Youtube
http://www.youtube.com/watch?v=OWrMhqndA58


続けてリリースされた Otis Rush のアルバムもアナログ盤は処分してしまったが,そのアルバムの最後を飾る 'Take A Look Behind'(='Looking Back') は,今でも,ギターで泣きたい時に聴く定番曲。
● Otis Rush "Right Place, Wrong Time" [edsel ED CD 220] -1976
 Nat King Cole が最初にヒットさせた,その 'Looking Back' にはさまざまなシンガーによるカバー・バージョンがあり,最近発掘された Louis Wiiliams (The Ovations) の歌も素晴らしかった。
● V.A. "The Goldwax Story vol. 3" [KENT CDKEND 335]

Otis Rush - Take A Look Behind @ Youtube
http://www.youtube.com/watch?v=oTTGvUQn-8E


当時購入した LP のほとんどは売り払ってしまったが,その後も P-Vine 盤の CD には,たいへんお世話になっている m(_ _)m
手持ちの CD をざっと数えてみたら,『Blues & Soul Records』誌の付録 CD も含めると,200枚以上あった。


本書の p.16 には,↓ のような記述がある。
 「(前略) とりわけ,数十年後にオバマが引用することになるサム・クックというシンガーこそ,自分の音楽ライフ,仕事,人生の大きな出発点であった。RCA というメジャー・レコード会社に属しながら,独立精神の旺盛だったサム。彼がこの世から去って10年ほど経ったころ,のめりこんだ音楽を軸に小さいながら起業したのもサムの生き方,精神性が背中を押してくれたのだと感慨深く思い起こす。」
立ち上げた会社を Blues Interactions と名付けるくらいなので,日暮泰文さんには「ブルース」のイメージが強いが,彼が Sam Cooke から受けた影響の大きさは,↓ に収録されている 「悠久の川の流れにこだまする歌」と題された解説を読むと,さらによく分かる。
□ ダニエル ウルフ 『Mr.Soul サム・クック』 石田泰子・加藤千明 訳,ブルース・インターアクションズ 刊

極端に言えば,日暮泰文という人間が Sam Cooke というシンガーに出会っていなければ,P-Vine というレーベルは存在せず,日本における「黒人音楽」の普及は,かなり遅れていたかも・・・?


同友館という出版社の YOU GOTTA BE Series という「インディペンデントな仕事と生き方の発見ノート」のシリーズの一冊。「黒人音楽愛好家」以外にも「これから起業しようとしている方、中小企業の経営者の方」などを対象にしているらしい。
最近話題の iPad や iPhone,iPod touch でも読めるように,デジタル書籍としても売り出されている。
http://itunes.apple.com/jp/app/id395479633?mt=8

P-Vine からリリースされた LP/CD に愛着を持っている「黒人音楽愛好家」にとっては非常におもしろい本だとは思うが,その他の起業家や中小企業経営者にとって,帯に大きく表示されている「非メインストリームに生きよ」という言葉は,この数年で「死語」になりつつあるような気がする。オバマという黒人(非白人) が大統領になり,自民党政権に代表されるような過去の「体制」が崩壊した現在では,「メインストリーム」そのものがあやふやな存在になってしまっているのではないか?


本書の解説(高地明) 中に,P-Vine のレコード店頭配布用のカタログについて,「根底に極力廃盤にはしたくない,という気持ちが強くあって,基本アイテムから,かなりのマニアックなものまで,常に市場にあってこそ,新たなファンを生みながらその音楽が認識されていく,それがレコード会社の責任である,という考えである。」 と書かれていた。
持っているという権利を主張するだけで,その音源の多くを封印したまま,手垢のついた同じ音源を手を変え品を変え形を変えて売りつけるだけの悪徳レーベルに読ませてやりたい名言ではないか。

2010年10月24日 10時25分 | 記事へ | コメント(4) | トラックバック(0) |
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