The Complete Blind Willie Johnson
Blind Willie Johnson "The Complete Blind Willie Johnson (2 CDs)" [Sony SRCS 6705]
『ロックを生んだアメリカ南部』 の「参考 CD 選」にリスト・アップされているアルバムの1つ。
右から左へ受け流して聞いていると,スライド・ギターの上手い優れたブルース・シンガーとしか聞こえないが,時折聴き取れる歌詞やライナーに掲載されている対訳に注意すると,歌われている内容はゴスペル以外の何物でもない。
『ロックを生んだ〜』には,「ゴスペル・ブルース・シンガー」として紹介されているが,Bobby Bland のような「ゴスペル・ブルース」(ゴスペルっぽいブルース) ではなく,「ブルースのフォーマットで歌われるゴスペル」というくらいの意味か? 細かいことにこだわるようだが,それなら「ブルース・ゴスペル」という呼び方のほうがふさわしいのでは・・・?
AMG でも Blues Gospel というジャンル分けで,ほかには Rev. Gary Davis や Thomas A. Dorsey,Sister Rosetta Tharpe などの名前が挙げられている。ただし,彼(女)らの場合はブルースからゴスペルへ転向するなどブルースやジャズを歌っていた時期もあるのに対して,Blind Willie Johnson の場合は,ブルース的な内容の歌を歌うことを頑なに拒否していたらしい。
1927〜30年にかけて録音したこれらの曲の一部がベスト・セラーになるという幸福な時代はあったものの,7歳のときに父親と継母のケンカの巻き添えで失明し,最期は濡れたベッドに敷かれた新聞紙の上あるいは焼け落ちた自分の家の灰の上で肺炎のために45歳で亡くなる・・・という彼の人生は,恵まれたものだったとは決して思えない。
地声を押しつぶしてしわがれた声で唸り吼える彼のゴスペル曲は,信じてやるから救ってくれ,救ってくれなければ恨んでやるぞ・・・と,まるで神に対してケンカを売っているようにも聴こえる。
歌詞の無い Disc 1: 5. Dark Was the Night, Cold Was the Ground には,生身の人間の悲しみ・悩み・怒り・・・といった感情があふれている。
彼の曲で最も有名なのは,おそらくその "Dark Was the Night, Cold Was the Ground" 。
Ry Cooder がカバーしている。
◎ Ry Cooder "Paris, Texas" [WARNER 9 25270-2]
10. Dark Was the Night
ほかに,Bob Dylan や Eric Clapton も彼の曲を採り上げている。
◎ Bob Dylan "Bob Dylan" [COLUMBIA/SONY SRCS 9239]
5. In My Time Of Dyin' ← Disc 1: 2. Jesus Make Up My Dying Bed
○ Eric Clapton "There's One in Every Crowd"
1. We've Been Told (Jesus Is Coming Soon) ← Disc 1: 8. Jesus Is Coming Soon
Blind Willie Johnson の作品集は,CD 1枚にまとめられた編集盤がいくつかリリースされているが,彼が残した録音は,この "The Complete 〜 (2 CDs)" に収められている30曲がすべてなので,この2枚組セットを持っておきたい。ただし,こういう1920年代の音源は SP に頼るしかないため,その状態によってかなり差があり,Yazoo などその他のレーベルでリリースされている CD も,聴き比べてみる価値はあるようだ。
同じ,SONY/Columbia の ROOTS N' BLUES シリーズには,↓ のようなコンピレーションもある。
◎ Various Artists "Preachin' The Gospel: Holy Blues" [Sony SRCS 5511]
Blind Willie Johnson: 1. Mother's Children Have a Hard Time 2. I'm Gonna Run to the City of Refuge
George Washington Phillips: 3. Denomination Blues, Pt. 1 4. Pt. 2
Arizona Dranes: 5. God's Got a Crown 6. He Is My Story
Josh White: 7. Jesus Gonna Make up My Dying Bed 8. While the Blood Runs Warm in Your Veins
Elder Charles D. Beck: 9. Drinking Shine
Blind Gary Davis: 10. Lord, I Wish I Could See
Jessie May Hill: 11. Sunshine in the Shadows
George Washington Phillips: 12. You Can't Stop a Tattler, Pt. 1 13. Pt. 2
Rev. Johnny Blakey: 14. King of Kings 15. Jesus Was Here on Business
The Blue Chips: 16. Crying Holy Unto the Lord 17. Stay on the Right Side of the Road
Sister O.M. Terrell: 18. Bible's Right 19. I'm Going to That City
この CD を聴いていると,一口にゴスペル音楽と言っても多種多様なスタイルがあり,サウンド面でブルースやジャズなどの世俗曲と密接な関係にあったことがよく分かる。
Led Zeppelin も,この Blind Willie Johnson の曲をカバーしているが,Traditional とさえ表記せずに自作曲としてクレジットしており,彼らのレパートリにはそういう盗作をしたとしか思えない曲がかなりある。
◎ Various Artists "Zeppelin Classics" [P-Vine PCD-2538]
2. Dazed And Confused - Jake Holmes
7. Black Water Side - Bert Jansch ← Black Mountain Side
9. How Many More Years - Howlin' Wolf ← How Many More Times
12. Killing Floor - Howlin' Wolf ← The Lemon Song
14. Bring It On Home - Sonny Boy Williamson II
22. Shake 'em On Down - Bukka White ← Custard Pie
23. Jesus Make Up My Dying Bed - Blind Willie Johnson ← In My Time Of Dying
25. Nobody's Fault But Mine - Blind Willie Johnson
この Led Zeppelin の元ネタ曲を集めた CD の解説(伊藤秀世) は,次のような言葉で締めくくられていた。
・・・どうしても解せないのは,彼らのレコードや CD 類を隅々まで眺めても,2. 7. 9. 12. 14. 22. 23. 25. などに対してカヴァーなり改作なりの但し書きがまるで見当たらない点だ。だから,「黒人音楽の遺産を食いつぶす盗っ人」などと,ローリング・ストーン誌あたりに皮肉られる。ツェッペリン・クラスともなれば,たとえそれがカヴァーであろうが改作であろうが,優れた作品自体に寄せられる高い評価は,断じて変わるはずもないのに,その潔さの欠如が悔やまれてならないのは,おそらく私だけではなかろう。
Rolling Stones のメンバーは,自分たちの元ネタ集を手渡されて素直に喜びを表現した わけだが,Led Zeppelin の場合,この元ネタ集を渡したら,どういう反応を示すだろうか・・・?
Jimmy Page あたりは,ネタバラシをされたことに腹を立てて怒り出すかも・・・(^_^;)
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2008年1月25日 23時08分
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Arizona Dranes を検索していて辿り着きました。
浅学の私と違い、いろいろとよくご存じと感心させられました。
これからも勉強の為に寄らせて頂きます。
宜しくお願い致します。
Google Analytics を利用しているので,どんなキーワードで当ブログにアクセスしておられるか分かるようになっているのですが,ときどき,自分で記事を書いた記憶の無いキーワードによるアクセスがあります。'Arizona Dranes' もそんな一つでした。
内蔵されている体内メモリは既にガタが来ていて,ネットに接続していないと何の役にも立たない情報サイボーグみたいなものですから・・・(^_^;)
こちらこそ,よろしくお願いします・・・m(_ _)m